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asagao’s blog

日記と雑記、読書メモは個人的感想でネタバレ含みます。

モンテ・クリスト伯 読書メモ19

デュマの文章の特徴は、淡々と続く事実の描写。

これがまた心地よい。

例えば、モンテ・クリスト島の探検の場面。

ダンテスが全身に受ける風、あたりを満たしている熱気、木々のざわめき。

余計な飾りの無い、率直でありながら伝えるべき要所をとらえた言葉。

あたりを見回す。
視界に写るものがダイレクトに脳に伝わる、そのリズムを崩さない描写。

私はその場所に立っているかのような錯覚に陥る。

賛否両論あるが、私は名文だと思う。


さて、ダンテスは遂に宝を手にした。

ようやく父の元へ帰る。
もはや亡き人となっていることを知っていながら。


懐かしき街角、
見上げる最上階の貧しき我が家。


なぜだろう。
私はこのシーンを読むと、チャップリンが過ごした屋根裏部屋を思い出す。

母親と兄とチャップリン
不快な屋根裏部屋を、快適にしてくれた優しい母親。貧しく苦しい生活を寄り添い生きていた。

その彼らの姿と、ダンテス親子の姿が何故か二重写しになる。

ダンテスも父親と二人きり、つつましくも穏やかな日々を過ごしていた場所。父親が丁寧に窓際の金蓮花で柵を編む姿が印象的だった。


狂おしい牢獄からようやく帰って来た。
戻ってきたというのに、その場所に父はいない。
窓際の金蓮花も。

「彼は一本の木に身をもたせた。そして、しばらくのあいだ、もの思わしげなようすで、この貧しい小さな家の、その一番上の階を見あげていた。」※1


過去の思い出となってしまった場所へ、それでも帰らずにはいられなかったダンテス。

自分が閉じ込められていた間に変わってしまった、現実。

もちろんメルセデスも行方不明。


ダンテスは一つずつ現実を確認してゆく。


※1アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、モンテ・クリスト伯二、岩波書店