asagao’s blog

asagaoの観察日記。

モンテ・クリスト伯 読書メモ32

ダングラールの訪問。

このシーンは初めて読んだ時、何故か頭に焼き付いて離れなかった。


銀行家のダングラールは、無制限貸出をモンテ・クリスト伯にするようにという手紙を受け取り、慌ててモンテ・クリスト伯の邸へとやって来た。

モンテ・クリスト伯爵とは、どんな男なのか。
興味津々で無様に門外から覗き見る姿を、モンテ・クリスト伯は、窓から遠眼鏡で観察している。

「実に醜悪な男だな。」※1

モンテ・クリスト伯は遠眼鏡を収めながら、こう叫ぶ。

小説内で、「じつに、」を2回呟くところがデュマらしい。


生き方の醜さは、顔の美醜とは別に雰囲気や振る舞い言葉遣いに滲み出る。

ダングラールの卑怯な思考。傲慢な言葉。
億万長者になっても貧しい価値観。

これらは、この後ダングラール邸をモンテ・クリスト伯が訪問した際に、こと細かく描かれる。

まず互いの名を呼ぶとき。

ダングラールは「モンテ・クリストさん」と呼ぶ。現代にもこのような人間がいるが、ただ憮然とその非礼を受けるモンテ・クリスト伯ではなく、


衆議院議員、レジオン・ドヌール帯勲士、ダングラール男爵でいらっしゃいますか?」※2

と返す。名刺に書かれた肩書きをすべて繰り返されてダングラールは唇を噛むことになる。


しかも、この後もジワジワと正論をならべられ、その肩書も時代遅れと証明されてしまう。

無制限貸出についてのやりとり、ダングラールの妻が、客人の前で夫を侮蔑する流れ。

どれもこれも、人前で鼻を上に向けていられる人間の特徴を余すことなく伝えていて面白い。

ダングラールは富と権力で身を飾り、自分が人間以上の何かになったつもりなのだ。
そして、常に他人を見下ろすクセがある。

何なのだろう。

人よりも自分が優れていると、全身でアピールしてくる人間。

それは心の中にしまって置きなさいと言いたくなる。

確かに誰もが自分の目で見る世界が真実なのだ。
自分の世界で、「自分が一番だ。」と思うのは自由だ。
それでいい。君の人生だ。そう思って生きるべきだろう。

しかし!


「君は最低だ。私より遥に劣る。」
これは言ってはいけない!絶対にだ!


他人を評価する権利は誰にも無い。


善悪を正すことは必要だ。

しかし、他者を勝手に評価し、見下す事はあってはならない。


出来るのは、自分の評価だけだと思って置くべきだ。

こんな世の中だ。
他者が勝手につける評価など気にするのはやめよう。

真実は、ただひとつ。


自分自身の評価だ。


今日は、理想に近づけたのか、遠ざかってしまったのか、明日はどうするのか。
どんな小さな進歩でもいい、一ミリでも前へ進もう。そう思いたい。

後悔があるなら、明日は負けるなと自分に言い聞かせる。

悔いない明日を迎えるために、よく眠り、明日に全力を尽くそう。

本を読み、思索する。

正解は無い。

しかし、明日への糧となる。

明日、枕から身を起こす力となれば、読書に意味があると思う。


※1,2 アレクサンドル・デュマ作、山内義夫訳、モンテ・クリスト伯岩波書店