asagao’s blog

日記と雑記、読書メモは個人的感想でネタバレ含みます。

モンテ・クリスト伯 読書メモ66ネタバレ有。

青銅の心。
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ついにモンテ・クリスト伯の真意に気づいたアルベール。

オペラ座観劇の場で、モンテ・クリスト伯へ決闘を申し込む。

伯爵は狂気のアルベールに細心の心構えで臨みながらも、表には全くそれを出さない。

まさに「青銅の心と、大理石の顔」※1を持つ男。

自分の桟敷へ乗り込んできた若者へ、いつも通りの挨拶をする伯爵。

それに対してアルベールは、
「独善的な礼儀や、心にもない友情のみせかけの交換にやってきたのではありません。」※2
と言い放つ。

これはアルベールの口を借りたデュマの言葉に聞こえる。

私はこの言葉に思い当たる事がある。

礼儀正しいのに、どうも好きになれない人物。
見た目は親しい友人、影では悪口を言う人。
そういう人々は、まさにこの台詞通りの人柄なのだ。

独善的な礼儀とは、自分を正当化するために丁寧な物言いをする事。つまり、対話をしてる相手を尊重して礼儀をつくすわけではなく、自分が批判されないように礼儀正しく振る舞う事だ。

当然人目がない場所、礼儀を尽くす必要のない場所では、無礼な人間に早変わりする。

心にもない友情のみせかけ。
これも見せるための行動で、真からの友情ではない。心ではせせら笑う、卑怯な振る舞い。

おそらくデュマはそういう行動にウンザリしていたのだろうと思う。どこかで吐き出したかったに違いない。

アルベールはアルベールで、精一杯の皮肉を叩き込んでいるこのシーン。ここへ、この台詞を持ってきた。

さて、怒りに震えるアルベール。
平静の伯爵。

極限状況のアルベールに伯爵は、更に火に油を注ぐような言葉を投げ掛ける。

オペラ座の観客たちが、何事かと見つめるなかで、
「モルセールさん。」と呼び掛ける。

もはや、伯爵から決闘を申し込まれていると言っても過言ではないこの言葉に、激昂したアルベールは手袋を投げつけようとする。(決闘への挑戦のしるし)

しかし、まわりの友人に押し止められてしまう。

伯爵はいつもと変わらない。

もはや乱闘寸前の状況で、立ち上がりもせずに、椅子をかしげて手を伸ばし、もみくちゃの手袋を取り上げて決闘を受けると宣言する。

目を血走らせるアルベールは桟敷の外へ、伯爵は双眼鏡を手に観劇の続きを楽しむ。

戦いにおいて不動であること。

これほど強さを誇示できる方法があるだろうか。
絶対の自信。そしてそれを支える日々の鍛練。
そして、物事の成り行きのすべてを把握している洞察力と判断力。

伯爵はマクシミリアンに言う。
「私があなたと握手しているのとおなじほどの確実さで、明日の午前十時まえに、彼を殺しているでしょう。」※3

このあとボーシャンのとりなしなども挟まれるが、
「モンテ・クリスト伯に命令できるものは、モンテ・クリスト伯以外にないのです。」※4
との名言を出して突っぱねる。

自分の人生の選択は自分の意思によって成されるべきという哲学を感じる。
そのかわり、その選択による報いもまた自らが受けるものと言うべきか。

観劇の舞台は幕が移り、外す事のない弓の名手「ウィリアム・テル」。

これは、アルベールの運命を暗示するのか。
デュマのユーモアを感じる。

当時の読者はここで「ウィリアム・テル?」と、アルベールの絶対絶命を予想したに違いない。

デュマ自信愛してやまなかったこの作品。
この作品は本当に読者とデュマの距離が近い。

※1、2、3、4アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、モンテ・クリスト伯六巻 岩波書店