asagao’s blog

日記と雑記、読書メモは個人的感想でネタバレ含みます。

モンテ・クリスト伯 読書メモ67

メルセデスの哀願
f:id:kazbot:20170515190020j:plain

個人的に1番嫌いな場面だ。

身勝手な女の、愚かな弁明。

言葉の端々に現れる自己中心的な言葉。

過去の事実を突きつけられても、アルベールの命乞いをやめることはない。

美しい母親の愛情とは少し違う。

餓死した父親、人生の全てを奪われたダンテスの苦しみを延々と聞かされても、我が子の命の保証を得るまでは全く耳に入らないらしい。

挙げ句の果てには、アリ・パシャの不幸が伯爵に何の関係があるのか、それが伯爵にどんな損害を与えたのか、と言い出す始末。

物事を損得で考える所がフェルナンと似通う。

フェルナンとは夫婦となるべくして夫婦になったのだと思わせる描写が続く。

この場面を見る限りアルベールの振る舞いも、どうやらメルセデスの性質を受け継いだもののようだ。

長い語らいの中で過去の全てを語り、怒りと苦しみの全てをダンテスとしてさらけ出した伯爵。


ここで、伯爵は過ちを犯す。


人間、全てをさらけ出してしてしまうと途端に弱くなる。どんな人間でも同じだ。

相手が力を持って迫れば、力を持って抵抗する事ができる。これは容易な事で本能といっても言い。

しかし、哀願と、理解と、愛情を持って迫られたなら拒めるだろうか。その相手に敵意を持ち続けられるだろうか。これはとても難しい。これも人間の本能なのだ。

人間の弱点は哀れみだ。

時にその弱点を利用する悪人もいる。
これは、デュマの隠れた警告だろう。



泣き崩れるメルセデスに、遂に伯爵は陥落する。

あの伯爵がまるで別人の様だ。



明日の決闘で、「アルベールを生かす。」
メルセデスに驚きの約束をする伯爵。

あれほどの決意。
あれほどの準備。
復讐を糧として生きてきた伯爵が、かつて愛した女の涙に全てを放棄した。

アルベールを生かす事は、すなわち伯爵自らの死を意味する。

しかし、狂喜の叫びをあげるメルセデス。

そして、伯爵が死を選んだことを聞くも、あっさりとそれを受け入れる。


そして、
「この世の中ではすべてがおしまいではないということ。」※1
という謎めいた言葉を残しメルセデスは去る。


自分の死を受け入れたメルセデス。
それにもまして復讐の機会を失った事に呆然とする伯爵。


しかし、彼女の乗る馬車が去る音に伯爵は我にかえる。


「復讐しようと決心したとき、心臓をむしり取っておけばよかったんだ!」※2

自分の愚かさに愕然とする伯爵。
深夜1時を告げる鐘の音が響く。


※1、2、アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、モンテ・クリスト伯 六、岩波書店。