asagao’s blog

日記と雑記、読書メモは個人的感想でネタバレ含みます。

モンテ・クリスト伯 読書メモ68

悔恨。
f:id:kazbot:20170521145651j:plain

我に返った伯爵は、深い悔恨の淵に臨む。
そそりたつ自尊心。
打ち砕かれた復讐。

「生」の目的であった計画の未達成。
更には不名誉な結末を迎える事に恐ろしさを覚える。

伯爵は自問自答する。
このままこの現実を受け止め、アルベールの前で動かぬ的になるべきか。

今や伯爵にとって重要なのは「死」ではない。

死とは「すべての不幸な人々のあこがれやまない休息(中略)肉体の平安」※1
故に恐れるものでは無い。
(これには、多分に欧州の宗教的思考が含まれる。私は現世の苦痛から逃れる為の死を否定する。)

しかし、問題なのは計画の破綻。
この決闘による不名誉な結末。

この2つの問題を回避するために、伯爵は遺言を書き始める。事の真実を残すために。

そして、伯爵は天を仰いで訴える。
罪深き彼らが今世で受ける事のなかった懲罰が、あの世で待ち構えていることを知らせてやらなければ!と。

深い物思いに沈む伯爵の元に、早朝5時の朝日が射し込む。
微かな物音で隣の客間へ来ていたエデの存在に気づいた。

ソファーにもたれ眠りに落ちている、青ざめた顔のエデ。
伯爵は新たな悔恨にとらわれる。

「あの女は自分に一人の息子のあることを思い出した。(中略)それなのに、このおれは、自分に一人の娘のあったことを忘れていた!」※2

遺言にはエデの為に一文が加えられ、それを目を覚ましたエデが読んでしまう。

この後の会話とエデの行動で、伯爵は自分がエデに愛されていることを知る。

伯爵の遺言を破り捨て気を失ったエデ。

「おれはまだ幸福になれたのに!」※3

死を前にして、伯爵に見えなかったことが見え始める。
随所に輝く、希望のカケラ。
「人生は生きている限り変えることが出来るのだ」というデュマのメッセージだ。

死んだら変えられない。何も変わらない。永遠に。

生きている間だけだ!
変えることが出来るのは、どんなに苦しくても今だけなのだ!
今がチャンスなのだ!

絶対絶命でも諦める必要はない。


7時5分。

マクシミリアンとエマニュエルと共に、伯爵は出発の時を迎えた。

ここに、僅かな描写がある。詩的な描写というか、私はこの最後の一文が好きだ。
「モンテ・クリスト伯は、廊下を通っていきながら一つのドアの前で、なにか聞こうとでもするように立ちどまったのだった。(中略)すすり泣きの声が聞こえ、それにたいして答える溜息が聞こえたように思われた。」※4

伯爵とエデの気持ちが思いやられる。



時間通りに決闘の場所に集った人々。
遅れて到着したアルベール。

彼の言葉で、決闘は呆気なく終わる。

「伯爵には処罰の権利がある。
故にこの決闘は必要ない。」

メルセデスは真実を息子に告げたのだ。
フェルナンへの復讐は形を変え成就した。

伯爵は当初アルベールを殺害するつもりだった。

しかし、自分が死にアルベールを生かす事を選んだ結果、息子の心から父を敬う心を殺してしまった。

全てをフェルナンに奪われたダンテスが、フェルナンから全てを奪った瞬間だ。

地位、名誉、財、妻、息子を、一連の事件が根こそぎ奪い去ったのだ。
自らの行いが全ての結末を導きだした。

伯爵の計画外の出来事が、あたかもパズルのように完璧な結末を描き出した。

モンテ・クリスト伯は確信する。

「やっぱり神の摂理だった!」※5

※1~5アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳、モンテ・クリスト伯六、岩波書店