asagao’s blog

日記と雑記、読書メモは個人的感想でネタバレ含みます。

モンテ・クリスト伯 読書メモ70

明暗。
f:id:kazbot:20170528221316j:plain

伯爵の無事を知り、喜びに顔を輝かせるエデ。
静かな胸の高鳴りを感じる伯爵。
見つめ合う二人の元に、モルセール伯爵の到着を告げる声が響く。

平静を装い客間へ通すように答えながら、伯爵は死者から生者として蘇生した幸福を噛みしめる。

「おお!神よ!(中略)このわたくしに、まだ愛することをおゆるしになってくださいますか!」※

復讐の剣を手に目をそらし続けて来た、その幸福な人生に立ち戻りつつあることを感じる。

自らに禁じてきた人を愛するという人間らしい感情。失ったと思われた幸福が実はすぐ隣に寄り添っていた事実。

緩やかに進む雪解けの時。


その穏やかな空間に、文字通り土足で踏み込むモルセールことフェルナン。

獣が吠えるが如く、伯爵に決闘を挑む。
二人の言葉による応酬。

「本名を名乗れ」との言葉に、伯爵はその素性を明らかにする。
思いもかけない事実。

フェルナンは目の前に立つダンテスの存在、そのただ一つの事実に打ちのめされ、自らの罪に押し潰され、息も絶え絶えに馬車へ駆け戻る。

たどりついた自分の邸では、妻と息子が正に家を出ようとしている。

姿を隠すフェルナン。

最後に一目見ようと窓へすがり付くも、振り向きもせず出ていく二人を見送る事になる。

ダンテスから奪い取ったものを、全て失った瞬間だった。

それらは、モンテ・クリスト伯の策略ではない。

全てが、自らの恥ずべき行為による結末だった。

ただ事実が明らかになった。それだけの事なのだ。

一発の銃声。

決闘で鳴り響くはずだった銃声が、フェルナンの命を絶った。

残るは、あと二人。

※アレクサンドル・デュマ作、山内義雄訳
「モンテ・クリスト伯」六、岩波書店